2020.02.25
年をとったから筋肉がなくなって細くなってきた…そんなことを思ってはいませんか?元気な状態を保つには、丈夫な骨や筋肉があることが大事なことの1つです。いくら運動をしていても、食事をとっていても筋肉がなくなっていく病気「サルコペニア」というものがあります。最近は、テレビやインターネットでも「サルコペニア」ということばを耳にすることが多くなっています。
● サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下半身・体幹の筋肉など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。
サルコペニアという用語は、ギリシャ語で筋肉を表す「sarx (sarco:サルコ)」と喪失を表す「penia(ぺニア)」を合わせた言葉です。
● サルコペニアの分類
サルコペニアは、加齢が原因で起こる「一次性サルコペニア」と加齢以外にも原因がある「二次性サルコペニア」とに分類されます。
加齢以外にも、日常生活動作や疾患、栄養状態によっても起こります。
? 寝たきりの生活や活動性が低下することによって起こる廃用によるもの
? 癌や虚血性心不全、末期腎不全、内分泌疾患などの疾患によるもの
? 栄養の吸収不良、消化管疾患や薬の副作用による食欲不振、エネルギー・タンパク質の摂取不足によるもの
● サルコペニアのメカニズム
筋肉の量は筋タンパクの合成と分解がくり返し行われることによって維持されています。筋タンパクの合成に必要な因子の減少や、筋タンパクの分解が筋タンパクの合成を上回ったときにも筋肉量は減少します。
加齢によって、筋肉の増加に関係する性ホルモンの減少・筋肉を働かすために必要な細胞の死(アポトーシス)・ミトコンドリアの機能障害が生じることと、廃用・栄養不良・がんや糖尿病などによる筋萎縮の要因が合わさってサルコペニアを発症します。また、脳からの指令を筋肉に伝える働きをする運動神経の損失や、筋肉の増大に関係するホルモンの影響によってもサルコペニアは起こります。
各疾患に罹患することにより炎症性サイトカインが多くなって、筋タンパクの分解が進むことでもサルコペニアの発症につながると考えられています。
● サルコペニアの診断
サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量の低下と筋力(握力)低下、もしくは身体能力(歩行速度)の低下がみられることによって診断されます。これらは、加齢によって骨格筋の筋線維の減少や筋線維を支配している神経の減少、運動を伝える神経の機能低下などにより起こり、さらに、骨格筋の成長に関わるホルモン、血流、炎症、インスリン抵抗性などが関与しています。
6mの歩行テスト、筋肉量の測定、握力の測定結果によってサルコペニアかどうかを判断する欧米人向けのサルコペニア診断アルゴリズム(測定方法)が最初に確立されました。
筋肉量の測定には、骨粗鬆症の判定にも使われるX線照射による方法、または微弱な電流を体に流し、電気抵抗で測定する方法が推奨されています。
欧米人とアジア人の骨格は異なるため、日本人の体格でも対応できるアジア人特有の診断基準がつくられました。
● サルコペニアの治療
〇 運動療法
筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためにはレジスタンス運動と低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。レジスタンス運動とは抵抗を加えた運動であり、筋力トレーニングとして一般的に知られています。高齢者や虚弱(フレイル)であっても、継続的に筋力トレーニングを行うことで筋力増強や身体能力の向上はみられます。筋肉量の減少や筋力低下がみられる部位や程度、元々の身体能力は個人によって異なるため、個人の状態に合った筋力トレーニングを実施することが望ましいと言えるでしょう。
また、毎日のウォーキングやサイクリング、水泳、ラジオ体操などの低強度(軽く息が弾む程度)の有酸素運動を行い、全身の筋肉を動かすことでも骨格筋が収縮し、筋肉の成長を促すたんぱく質合成が誘導されます。毎日の生活の中で、散歩などの身体を動かす活動と筋力トレーニングを少しずつ実施し、習慣化して継続していくことが大切です。
〇 栄養療法
骨格筋量、筋力、身体機能は、たんぱく質の摂取量に深く関係しており、たんぱく質の摂取の重要性が言われています。高齢者では、若年者に比べてたんぱく質合成によって筋肉を成長させる働きが弱いため、1日の骨格筋でのたんぱく質合成を維持するためには、良質なたんぱく質を食事全体の摂取カロリーの2割を目指すことがすすめられています。
ただし、過度なたんぱく質摂取は腎障害のリスクを高めるため、腎機能の低下がみられる高齢者は医師や管理栄養士への相談が必要です。
たんぱく質の摂取とともに身体活動・運動を行うためのエネルギーや、骨代謝や抗酸化作用を促すビタミン・ミネラルを摂取することも大切です。十分なたんぱく質とエネルギーの摂取を行い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
〇 薬物療法
筋肉でのたんぱく質合成を促すには、必須アミノ酸のロイシンを補給すると効果的であることが注目されています。また、加齢によって機能が低下するホルモンの補充療法の研究も行われており、精巣から分泌される男性ホルモンのテストステロンや成長ホルモンの投与によって骨格筋量の増加が認められたという報告もあります。
その他、交感神経ベータ受容体活性化薬の投与による骨格筋量の増加がみられたという報告など、サルコペニアに対する薬物療法の研究が行われています。
筋肉量をより長く保つためには、まず自分がどの原因で筋力が落ちているのかを知り、筋力トレーニングや栄養、お薬の治療の中からどれが適切であるかを明確にすることが重要です。
当院では、運動療法は理学療法士、栄養指導は管理栄養士が専門知識を活かして行っております。
何か気になることや困っていることがありましたらお気軽に当院へお越しください。